腫れ物に触るような気持ちで……と言いますよね。
妻のうつ病発症当時の僕は、そんな気持ちの連続でした。
これは病気なんだ、大丈夫なんだ、本当の妻はそうじゃないんだ…そんなきれい事、いくら頑張って唱えてみたところで、僕は自分と彼女の両者を守るために…うつ病の妻に腫れ物に触るような接し方を続けていたんですよ。
ちょうど、妻のうつ症状が一番ひどい時だったかもしれません。取り乱したり、頭を抱えてしゃがみ込んだり、かと思えば僕をかたきのようにののしり、あることないこと強烈な敵意をこめた妄言をぶちかましてくる……。
そんなとき、僕はどうすれば良いんでしょう?
きれいごとはやめてください。机上の論理もやめてください。一般論もやめてください。そして愛情なんて言葉を持ちだすの…やめてください。
何を言っても裏を突かれる、何をしても疑われる。
はれものにさわるように、それ以上、機嫌を損ねないように、病的な怒りを爆発させないように、接するしかないじゃないですか?
でもね、僕がうつ病の妻に対して「はれものにさわる」ように接すれば接するほど、妻は、いえ……うつ病という精神疾患は僕の狼狽を見抜くんですよ。
とん服薬を飲ませて作用的に鎮静させるようなことでしか、僕も妻も落ち着く手法がない状況で、薬を飲んで落ち着いた妻のそばには、まるで自分も薬を飲んだように落ち着けた僕がいました。
それでも不穏が引かない場合は、昨日行ったばかりの病院に電話して、今から連れていくからなんとか診て欲しいと、主治医のもとへ。
疲れてなのか、薬のおかげなのか、病院で眠りにつく妻をみてスーっと抜けていく僕の緊張感。
するとここでようやく、うつ病患者への接し方、論理も手法も愛情も…思考が回り始めるわけです。
よく…うつ病の人にはれものにさわるような態度で接することはNGだと言われます。それは家族がうつ病であっても、職場で復職したうつ病の人であっても同様に、腫れ物に触るような態度で接することは良いことではないと。
こんなこと言ってしまって、誤解されたらどうしよう? 病状が悪化したらどうしよう? だからこわい。そして接し方に失敗しちゃいけないと気持ちがりきんでしまう。
でも、はれものにさわるような態度で接することによって、本当はいちばん苦しいであろう当事者の苦しみの深みが見えてくるんだと思うんです。
それはとてもとても難しい距離感なんだろうと思います。
うつ病は、当事者にも支える者にも、大きな試練を与える病気なんですよね…
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